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7月, 2020の投稿を表示しています

村上春樹「一人称単数」読書メモ

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村上春樹「一人称単数」2020年発行 文藝春秋 全8作の短編集。 「共通テーマは死?」と思って読み進めるが、 明確に「死」が描かれているのは4番目まで。 5番目のヤクルトの話は父親とラインバック、 6番目の謝肉祭はシューマンの悪霊・自殺未遂、 7番目と8番目の話は文字面には「死」は描かれない。 小説としての濃度は7番目の猿の話で増加して、 8番目の話(特にラスト)で視界不良なレベルに達する。 1〜7番までなんとなく不思議な要素を含む話を連ねていたのは、 8番目の話のフリのように思えてしまった。 8番目の表題作「一人称単数」は、 村上春樹氏の多くの長編の世界観を簡潔かつ直截に凝縮。 日常のすぐ隣にある(或はレイヤー的に常在する)言葉で説明できない異世界。 私見ではデヴィッド・リンチ的世界観と相似形。 普段は見えないが、何かのきっかけで扉が開く。 最近は、多分自分自身の加齢による感性の変化で、 20代の頃のように村上春樹の小説にビンビン感応する、 という事はなくなってきているのだが、 あいかわらずどこか独特な文体・構成にそこそこひきこまれる。 読書のスタミナも年々衰えてて、 メモを摂りながら読まないと読むそばから忘れていくので、 いまやむしろ短編の方がありがたいかもしれない。 村上春樹プロフィール 作家(年齢順)

赤川次郎「ふたり」読書メモ

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赤川次郎「ふたり」新潮文庫 大林宣彦「ふたり」の原作。 映画との大きな違いは姉の幽霊の設定。 映画は姉の姿が実際に実加にだけ見えているような描写だったが、 原作は実加の内側で声が聞こえるだけ。 姉に対する返事は内側でしている場合と実際に声を出している場合があるようだ。 先にこの原作を読めばそうでもなかったのかもしれないが、 どうしても映画を基準に比較してしまい、 映画に比べると総じて冗長な印象。 映画では弾き出しの編集が印象的だったピアノの発表会(P75〜)。 映画では全く描かれなかった親友・真子の父親の葬式(P102〜)。 実加のボーイフレンド・前田哲男は映画には登場しないキャラ。 前田哲男が絡むクラスメイトの名前は前野。 前田と前野と混乱しそうな名字をあえてつけているのは何か狙いがあるのだろうか? 実加目線の項で「父」と表記された次の項で、 実加と一緒にいるのに「北尾」と表記されるのは結構な違和感(p230〜)。 母親が姉の姿を見て会話をするシーンが1ヵ所だけある(p42〜)。 細かい事を気にしなければ、文章じたいは非常に読みやすい。 映画「ふたり」作品データ

大林宣彦「理由」雑感

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大林宣彦「理由」2004年 ※Hulu配信中(2020.07.23現在) 類似作品がパッと思いつけない独創的な異色作。 一見取材のカメラに向かって語るドキュメンタリー風パート(現在)と 再現フィルム風パート(過去)が交錯する自在な編集・構成は、 最終盤にメタフィクションの域に到る。 章立てメモ(主な語り手) ◯5分頃 プロロオグ 信子(寺島咲) ◯10分頃 第1章 事件(岸部一徳) ◯29分頃 第2章 入居者(赤座美代子) ◯39分頃 第3章 片倉ハウス(柄本明) ◯44分頃 第4章 隣人たち(小林聡美) ◯54分頃 第5章 病む女(加瀬亮) ◯63分頃 第6章 逃げる家族(古手川祐子) ◯69分頃 第7章 買受人(麿赤兒) ◯73分頃 第8章 執行妨害(小林稔侍) ◯78分頃 第9章 家を求む(宮崎将) ◯85分頃 第10章 父と子(南田洋子) ◯92分頃 第11章 売家(並樹史朗) ◯95分頃 第12章 幼い母(伊藤歩) ◯101分頃 第13章 写真の無い家族(厚木拓郎) ◯106分頃 第14章 生者と死者(根岸季衣) ◯111分頃 第15章 帰宅(峰岸徹、角替和枝) ◯121分頃 第16章 綾子(伊藤歩) ◯126分頃 第17章 再び、信子(寺島咲) ◯134分頃 第18章 逃亡者(勝野洋) ◯146分頃 第19章 出頭(勝野洋) 理由 作品データ 大林宣彦監督作品

半藤一利「昭和史 1926→1945」読書メモ

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半藤一利「昭和史 1926→1945」 実際に数人に話した事をそのまま収録している文体で非常に読みやすい。 アカデミックな硬い講義調ではなく、フランクな口調の文章。 この本が扱っているのは終戦まで。 どんどん戦争に進んでいく話と戦時中の話で、 そうなんだろうな〜と思っていた話(結局はほぼ利権の問題)も、 具体的な人名や会話で描かれると、ひたすら嘆息するしかない。 「起きては困る事は起きない事にする」 「一度立てた方針に反する最新情報は見なかった事にする」 という体質は修辞を変えながら今も脈々と受け継がれているようだ。 (最近の流行は<想定外>) ◯全電源喪失につながるレベルの大津波は来ない事にする ◯東京五輪が中止になるレベルの感染者は出ない事にする ◯Go Toが中止になるレベルの感染者は出ない事にする (東京五輪から逆算して1年前にGo Toを実施する) それでも人は変わっていく、と信じたいが、 100年前も今もさほど変わってないのだとしたら、 根本的な何かが変わらないと難しいのかもしれない。 作家(代表作,年齢順一覧)

Amazon「スタートレック ピカード」雑感

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Amazon「スタートレック ピカード」シーズン1 全10話 ロミュランが企む人工生命撲滅をピカードが防ごうとする話。 エンタープライズ的宇宙戦艦は殆ど活躍しない。 1話の最初の方になかなかのカンフーアクションシーンがあるので、 「今シリーズはアクション中心か?」と思ったが、その後はそうでもない。 昔の乗組員と再会するくだりはオールドファンとしては嬉しい(第7話)。 第10話のエピローグで描かれるデータ(の意識)の完全消去、 1個づつ抜いていくデータカセット(?)は2001年宇宙の旅風。 もともと若くは見えないPatrick Stewart(1940年誕生)は更に老けて、 長い尺のクロウスアップは結構キツい。 三役を演じるIsa Briones(1999年誕生)は角度によってはまずまずattractive。 横から見るとアゴがかなり突き出ている。 Patrick Stewart STAR TREKシリーズ

大林宣彦「SADA 戯作・阿部定の生涯」雑感

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大林宣彦「SADA 戯作・阿部定の生涯」1998年公開 ※Hulu配信中(2020.07.14現在) 様々な実験的趣向に満ちた異色作。 ここまでいろいろ趣向を凝らしているのは「 HOUSE ハウス 」以来? モノクロ/カラーが頻繁に切り替わる コマ送りの長回し(最中も雑誌を読み続ける、23分頃〜) 黒木瞳vs根岸季衣のコミカルなケンカ(トムとジェリーな足の指、81分頃〜) ヒロイン黒木瞳(当時30代後半)は角度や照明によってはattractive。 冒頭の処女喪失シーンはさすがに14歳には見えない。 黒木瞳プロフィール 片岡鶴太郎プロフィール 大林宣彦監督作品 SADA 戯作・阿部定の生涯 作品データ

司馬遼太郎「新史 太閤記」メモ

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司馬遼太郎「新史 太閤記」1968年発行 ※新潮文庫上下巻 本作品における人物評価は秀吉>信長>家康。 家康に関してはこれといった独創的なエピソードは描かれていない。 人は空虚な理念ではなく現実な欲得で動く。 経済的利益、美食、好色。 薬王子(やこうじ)の話(上巻p49〜63)。 友人にいつでも即座に躊躇いなく奢ってあげる身分になるのが夢。 尾張は上方の商業圏・文化圏、三河は東国のはじまり。 具体的に描かれるのは家康の上洛まで。 秀吉の最晩年は描かれない。 終盤は駆け足気味(地の文中心)。 新潮文庫上下巻で計約1050頁。 作家(代表作、年齢順一覧)

Terrence Malick「ボヤージュ・オブ・タイム」雑感

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Terrence Malick「ボヤージュ・オブ・タイム」2016年公開 ※Amazon配信中(2020.07.10現在) 近年稀に見る怪作。 ストーリーと呼べるモノは一切存在しない。 「シン・レッド・ライン」「聖杯たちの騎士」まだしも。 ショット・シーンが長すぎないせいか、不思議と見ていて飽きは来ない。 宇宙なのか極小の世界なのか判らないショットの美しさ。 劇場の大きなスクリーン・良い音響で観れば、もっとトリップ感を味わえたかも。 ※今回はPSVRシネマモードで鑑賞 21世紀の現実の光景に見えるショットは粗い画質で露光オーバー気味に撮られている。 ナレーションは ケイト・ブランシェット 。 参照作品:ATLANTIS(1991年) 参照作品:2001年宇宙の旅 映画監督(海外)

大林宣彦「転校生 さよならあなた」雑感

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大林宣彦「転校生 さよならあなた」2007年公開 ※Hulu配信中(2020.07.10現在) 大林宣彦作品の中では一見普通。 「その日のまえに」109分頃のハイパーモンタージュのようなガツンと来る規格外要素はないが、全編斜めのカメラ・時代がよく判らない服装(家では全員和服!)・ラストの墓など、やはり全てが一種の夢と言えるようなヘンな映画(←褒め言葉)。 今作は後半は1982年版と全然異なる展開。 設定を借りた別の話と言えるレベル。 ヒロイン蓮佛美沙子は、ルックス・肢体は非常に魅力的だが、 男女が入れ替わっている時の演技の面白さは小林聡美&尾美としのりの方が断然上。 着替え・水着のシーンでも蓮佛美沙子はバストトップの露出はなし。 後半の胸を触られるシーンでもバストトップの露出はなし。 入れ替わった状態でセックスしそうになるくだりは93分頃。 今作では残念ながらかなり最初の方で思いとどまってしまうが、 この設定で実際にやってしまうパロディ作品を見てみたい。 その瞬間に<自分>はどうなってしまうのか? 全くの邪推だが、蓮佛美沙子ヒロイン、長野県でロケ、など、 いろいろ外堀から埋められて実現した企画ではないか、と想像する。 作品データ 蓮佛美沙子プロフィール 大林宣彦プロフィール

大林宣彦「ふたり」雑感

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大林宣彦「ふたり」1991年公開 多分4回目の鑑賞。 過去3回は公開時(劇場)、レンタルVHS、DVD購入時。 再三様々な形で歌われる主題歌「草の想い」は叙情的なメロディラインの名曲。 エンドロールのおじさんバージョンは、自分がおじさんになった2020年に聴くとそれなりの味わいを感じるが、公開時は「コレ誰? 普通に中嶋朋子バージョンの方が良いのにな〜」と思っていた。 https://www.youtube.com/watch?v=ah0v9Ch4SNE 一言でまとめられる太いストーリーがあるようなないような、という約150分のこの作品の一番の魅力はある種の儚さを孕む姉妹の会話。 石田ひかりの囁くようなエロキューション、 中嶋朋子のやや低音のしっとりとしたエロキューション、ともに耳に快い。 大林宣彦印の狂ったハイパーモンタージュ(褒め言葉)はないが、 普通のよくある幽霊モノとはやはりどこか違うヘンな映画。 普通のエンタメならクライマックスでもおかしくない、 石田ひかりが襲われて殺されそうになるシーンで幽霊(姉)初登場。 父親を殺しかけるシーンで思いとどまらせるのか!? と思いきや、 このシーンではその場に姉はいないw 観客が自由に解釈できるように、あえて明確な判りやすいストーリーにしていない、 という可能性もあるかもしれない。 単純に、石田ひかり、中嶋朋子、中江有里、島崎和歌子を眺める映画としても十分成立。島崎和歌子もこの頃は美少女w 公開当時劇場で観て結構違和感を感じたハイビジョンを用いた合成ショット、 僕が所有するDVDでは全くリマスタリング? されていないようだ。 ふたり作品データ 石田ひかりプロフィール 中嶋朋子プロフィール 大林宣彦プロフィール