2023.02.28(火)芦原すなお「雨鶏」

芦原すなお「雨鶏」
女性に興味があるという描写は最初の話にはあるが、その後は殆んどなく、石上の美人の妹・あーちんから明らかな好意を示されても全く進展しない。最後の話で石上の彼女のような存在の斎藤さんに「山越君は彼女いないの?」と訊かれて「そんな不経済なものはいません」と答える。
友人と女性言葉で話す、友人と同じふとんで寝る、友人のいびきを子守唄のように聞く、という描写から、うがった読み方をすれば、実は主人公は潜在的なゲイ(自分では気づいていない)と読めなくもないが、それよりも、20歳の男子大学生にとって一番切実な問題な筈のセックス(性欲の処理)をあえて描かないのは、この小説は、1969年夏~1970年夏という具体的な時代を設定しているにも拘らず、一種のファンタジーとして読まれる事を狙って書かれている、と解釈したい。
失恋の話を語って海外に行く安根(もうひとりの主人公)も、唯一彼女らしき存在がいる石上もセックスの問題にふみこまない(石上は約1年デートはしても男女の仲にはなってない)。セックスというやっかいな問題が存在しない世界(一種のファンタジー世界)。実際の1969年~1970年はこうではなく、「ラス前」のコンパで絡んできた上級生のような人たちが幅を利かせていたのかもしれない。
あーちんのような女神のような女性、偏屈王のように純粋に文学に向き合う教授、ひたすら自堕落でぐうたらな生活を送っている主人公に常に寄り添っってくれる巽や石上のような友人。いずれも、現実にはいそうにない。
P220 安根とあーちんと3人で3本立ての映画を觀ている最中に驚くような幸福感に襲われる。これもリアルな青春小説なら隣に座っているあーちんが気になって映画に集中できないのかもしれないが、セックスというやっかいな問題が存在しないファンタジーな世界なら、ひたすら、単純に、幸福な瞬間になる。

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日本テレビ「午前0時の森」
水卜アナが絶賛したネットライター出演(オリコンNewS編集部・村岡)。

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