乾くるみ「イニシエーション・ラブ」読書メモ

乾くるみ「イニシエーション・ラブ」文春文庫 2007年

随分前に映画を見て、前半/後半で大きな仕掛けがあるのは覚えていたが、その仕掛けが何だったかは忘れていた。予備知識ゼロで読んだとしても、sideA/sideBと明確に区切っているし、鈴木の性格が相当に違う感じなので、同じ名字と愛称だが別人、という疑惑はsideBの前半で普通に湧いてきそう。この疑惑を抱かせない為には、sideAの終わりの方に、僕の人生は初交際・初体験によってまるでカセットテープをひっくり返すように180度変わった、という一文があってもよかった。sideBのかなり早い段階に本屋に行かずにパチンコ屋で時間をつぶすくだりで疑惑は相当高まり、海水浴のくだりと、ハードカバーの本のくだりで、普通の読み手なら仕掛けに気付けると思う。

そもそもsideAの時点で、交際開始後にお互いひとり暮らしで週に1回しか会わないのは非常に不自然。普通なら通い同棲になる。

この話で一番興味深いのは二股をかけて同じニックネームで呼ぶ繭子の心理。
中絶した子供の父親が本当にsideBの鈴木なのかどうかも明確に描かれない。
CD(ランダム再生)時系列バラバラの繭子編をこれはどっち? と推理しながら読みたい。
もうひとりの鈴木(たっくん)がいたという展開も作れそう。

sideBの冒頭、鈴木がやたらと食欲がないのは何だったんだろう? 遠距離恋愛のストレス?

P197の石丸さんの台詞「……一緒にご飯を食べる同期の子たちが休みだもんで……」、
東京出身と思われる石丸さんが「だもんで」を使っている理由を推理。
①作者(静岡出身)が「だもんで」は中部地方の方言と気づかずに使用
②作者は「だもんで」は中部地方の方言と知っているが、気にいっているので、全国的に流行らせたいと思ってあえて使っている
③石丸さんの親は実は中部地方出身

男性目線の性描写が結構リアルだな、と思ったら、女性みたいなペンネームだが男性。

80年代に青春を過ごしたので、連絡手段が電話のみ、という時代の青春恋愛小説として、仮に仕掛けがない普通の展開だったとしても、そこそこ普通に楽しめたと思う。もう少し当時ならではのムードがあれば更に良かった。

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Netflixで映画を再見。
同じ役者が二役演じていた記憶していたが、それは間違いで、全然容姿が違う役者が演じるという無茶な作りだった。

頻繁にテロップで日付を出し(冒頭のみ年月日、2回目以降は月日)、ジョギングの足元オーバーラップで同一人物が時系列に進んでいるように工夫しているが、どんなにやせても松田翔太にはなるとは思えないし、声が違うので、普通に考えれば別人だよね、と思ってしまう。

ジョギングの足元オーバーラップは映画手法的にギリギリの手。
ラストの丁寧すぎる時系列種明かしはすっかり忘れていた。

ホテルの前でふたりのたっくん鉢合わせは原作にはない展開。
ここで「SHOW ME」がかかるのはなかなか良いが、こんな劇的な場面があると、この場面はどうなるか気になってしまう。

この小説の仕掛けは文字だから成立する手法でそもそも映像化は難しい。映像化の最適解は同じ役者が二役演じて二重性格にミスリードさせる方向性か? 同じ役者が口調を変えて演じるラジオドラマならハマるかも。





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