劇団ひとり「浅草キッド」雑感

劇団ひとり「浅草キッド」2021年配信(Netflix)

芸人ものやバックステージものは大好きなので、充分楽しめたが、世間に絶賛評が溢れているようなので、あえて、気になった点に触れてみたい。

複雑な入れ子構造で、主人公たけしが、コンビの駆け出しの頃、更に遡ってフランス座時代、売れ始めた頃を回想して冒頭の時期(現代?)に戻る構造だが、たけしの師匠・深見に関するストーリーの強度と深見役・大泉洋の演技のインパクトが非常に強烈で、明確に深見を主人公にして構成した方がもっと良かったのではないか、と感じてしまった。特にそれを感じるのはラストの<あの頃のフランス座>を歩くほぼワンショットの長廻し。たけしが回想するこのパターンもそこそこ感動的ではあるのだが、これが一番生きるのは死ぬ間際に見る最期の夢(例「タイタニック」のラスト)。映画全体が完全に深見の話になっていて、この部分が、深見が死ぬ間際に見た最期の夢(深見が劇場内を歩き回る)だったなら、更に感動的だったのではないか。

AIが劇的に進化して、今後の配信コンテンツに起こりそうな機能を夢想する。
オリジナルバージョンとは別に、視聴者が希望する方向/尺にあわせて、AIが個別に再構成・再編集を瞬時に行なって視聴者に提供するようになる(ひとつのコンテンツは、オリジナルバージョン以外に視聴者が設定した数の別バージョンを持つ事になる)。
例えば、以下3つの別バージョンをAIが提供してくれるのならば、
①深見の話にする(構造を変えてたけしの話を減らす)
②たけし/深見が並立する話にする(上り坂の芸人と下り坂の芸人が浅草ですれ違う話)
③もっと明確にたけしの話にする(深見の話を減らす)
僕が一番見たいのは①だが、②のバージョンも興味深い。
②のバージョンでラストは誰の視線か限定させない(現在のたけしを登場させない、カメラだけがPOV風に移動する)というパターンまで指定できるようになっているかもしれない。

以下、再び普通の感想(雑感)。
現行バージョンでたけしの話を強化するならどうするか?
深見の話をもっとたけし目線で語る。
例えば、深見初登場シーンは、深見が劇場に入って行くとたけしがいる(現行)ではなく、たけしとおばちゃんが話をしている(弟子入りの相談)所に深見が来る、という流れで、全てたけしの立場から語る。たけしが賞金を渡しに行くシーンは、タクシーを降りたたけしを追って、たけしがアパートの部屋のドアを開けると深見がいる。
深見が東八郎と話すくだりなどは極力伝聞で語る。
深見と麻里の話はばっさり減らして、その分、たけしと千春の話を膨らませる。

30分頃の居酒屋にきよしがいて欲しかった(いないのはスケジュールの問題?)。
たけしと井上が仲良くなる話よりもきよしとの関係性進行が見たかった。
きよしがフランス座の楽屋裏にいるシーンは皆無だったのでは? 
それがラストのテレビのくだりの若干の唐突感につながったような(話では出ていたが…)

たけしが本当の本音らしき事を語る所も少しでも見たかった。
千春の子供の父親がたけしなのかどうかは明確には示されていないが、フランス座時代にふたりが普通に仲良くなってサービスベッドシーンがあって、事後に本音らしきモノを語るシーンが見たかった。

…などと、現行バージョンの改良点を夢想していたら、それよりも、上記①か上記②の方向の
方が良かったのではないか、という想いがますます強くなってきた。それくらい、本作の大泉洋の演技・存在感はインパクトがある。正直、今まで大泉洋の出演作を見て、器用で上手い役者だな、とは思っても、はっきり動かされるという事はなかったが、今作のいくつかのシーンでははっきりグッと来て動かされた。

深見の指の話をするシーンの直前に手の部分のクロウスアップのショットを入れるのは、ちょっと丁寧すぎる編集。もっと前にさりげなく見せた方が粋。

ラストの効果をより上げる為には、同じルートを通って、入り口〜エレベーター〜楽屋に行くシーンを前もって(できればルーティーン的に数回)見せておいて欲しかった。








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