Peter Weir「いまを生きる」雑感

Peter Weir「いまを生きる」1990年公開

Disney+で鑑賞。
公開当時の劇場鑑賞を含めて多分4回目か5回目の鑑賞。

1959年、全寮制の名門男子校が舞台。

初見の劇場鑑賞から直近(と言っても記憶では20年前)の鑑賞までは、生徒の少年たちに普通に移入して素直に感動して、ニール(Robert Sean Leonard)が自殺するくだりに関して、自殺する勇気があるのならどうして父親に自分の気持ちを強く訴えなかったのか!? と憤慨していたが、今回の鑑賞では、そういう感情も自分の中に残ってはいるものの、誰かが悲劇的に死んだ方が物語の主題(いまを生きる=いつかは死ぬ)の強化に与する、と製作者サイドの目線で感じる部分の方が大きくなっていた。

生徒たちのいまを生きる具体的な大きなストーリーは2つしか登場しない。
恋愛と演劇、どちらもうまくいって、Robin Williamsmも辞めないという話にする事は簡単だが、悲劇や別離を含んだこういう話だからこそ、中盤の何気ない瞬間がより輝く。
つまり、どう生きたとしても、人生は最終的にはある種の敗北(死)で終わる。
出会ったふたりは基本的にはいつかはどちらか片方が先に死ぬ。
だからこそ、特に若い時には、その瞬間にやりたい事に命を燃やす事が肝要。

人生の目的は究極的にはひとつしかない。
本当にやりたい事を見つけて一度は舞台に立つ=結果はともかくやれるだけの挑戦をする。
少なくともニールは一度は舞台に立った。
教科書を定規で破った少年はひたすら無難な道を選択して最期に後悔するのかもしれない。

この学校の卒業生でもあるRobin Williams演じる教師のある種の限界。
生徒や同僚(自分と同じ種類の人間)に対しては「知の巨人」だが、現実の問題を解決する為に自らが動いて積極的に関与する事は多分できない。
ニールに相談されてもできるのは言葉で励ますだけ。
ニールは最後の手段として父親と直接話して説得して貰いたかったのではないか?
(相談するシーンの最後の方に「もう僕にはどうしようもない」といった内容の台詞)
公演終了後にニールの父親に激しい言葉で警告されると何も言い返す事ができない。
自分と同じような種類の人間には多くの言葉と様々な表現でいくらでも話す事ができるが、実社会の複雑で濃厚な人間関係・声の大きさがモノを言うような人間関係は体験していない、自分と違う種類の大人相手のケンカはできない事が伺われる。

ただし、作品全体の基調は、Robin Williamsのような人間はダメ、と言う訳ではなく、声の大きさがモノを言うような人間関係(最終的には戦争を容認する社会)より、恋や芸術や学問に生きる人生をひそやかに肯定していると思う。その意味では、父親と直接対決する道を選ばず自ら死を選ぶニールの行動は無抵抗主義を象徴しているのかもしれない。

ニールの自死は、一面悲劇的だが、それでも一番やりたかった事(舞台でメインパートを演じる事)を一度でもやりきった事は、結局最後まで自分が一番やりたかった事ができなかった、または発見さえできなかった人生に比べれば、幸福な一瞬はたしかにあった、とも言える。逆説的に言えば、本当にやりたい事を見つけたら、恋愛でも学問でも芸術でもスポーツでも、時には命を賭ける覚悟で、うまくいくかどうか判らなくても突進する必要がある。

恋が成就したノックスと死を選んだニールの話は相似形。
恋に破れたノックスがその瞬間の衝動で死を選び、父親の翻意に成功したニールがそのまま演劇を続けた、という展開もありえる。人生は運とタイミングと踏み出す勇気。

いまの感覚で見ると結構冗長(上映時間128分)。
最初に洞窟に行くシーンの道中はもっと切れると思う。このシーンでかかる当時流行のシンセ音楽は、当時はどの作品の音楽もたいていシンセ音楽だったので気にならなかったが、いま見るとかなりの違和感。

今回初めて気づいた事。
①ニールの父親はいかにも腕っぷしが強そうな元軍人風の大男だったように記憶していたが、実際はニールが本気でケンカすれば勝てそうに見える体格だった(ニールよりも小柄)。
②中盤で反抗的だったラグビー選手風容貌の生徒(猫が敷物に座った)が最後に机の上に立つ生徒の中にいる。

最後に机の上に立つ生徒の数、画面ではっきり確認できるのは10人(座っているのは8人)。
ここで全員が立たないのが良い。「リンダ リンダ リンダ」のラストの学園祭で全員は盛り上がらないのと同様のバランス感覚。

劇中で弁護士の父親を持ち、多分弁護士志望のノックス(Josh Charles)は、後にドラマ「グッドワイフ」で有能な弁護士を演じている。






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