芦原すなお「東京シック・ブルース」読書メモ

芦原すなお「東京シック・ブルース」集英社文庫 2000年発行

過去に2回か3回読んでいる筈なのだが、またもや、殆ど細部を忘れている。
様々な人間との出会いと別れ。
出会った人とはいつか必ず別れる時が来る。
お互いが生きていても<あの頃>のように頻繁に会わなく事がほとんど。
出会って傷つけて会わなくなつろとしても、誰にも出会わないよりは出会った方が良い。
最後に残るのは一番普通っぽい權藤。
3人の女性とチャンスがありながら、
誰ともセックスしない事に作者の拘りと矜持がある。

以前に読んだ時は、まだ自分自身の大学時代に対する生々しい残滓がどこかにあり、主人公に過剰に移入していたのが、大学卒業から30年以上経って読んだ今回は、冷静に客観的に、古い建造物を眺めるような気分で振り返る事ができるようになったようだ。

◯松下文子の夜這い(P22)
上京前夜、同級生の松下文子が部屋に忍び込んで来る
ライブ感と脱線気味の文子の台詞が素晴らしい。
隣町まで行ってコンドームを買う苦労。
芦原すなおの小説の最大の魅力は、こういう段取りでない台詞のやりとり。

◯下宿の東大生の話①(P44)
東大生は「小説はフィクション。フィクションを面白がるのは程度が低い。それよりも本当の事(法律、経済など)を勉強する方がいい」といったような事を言うが、ハラリ氏の言を借りるまでもなく、法律も経済も国家もまた壮大なフィクション。

◯初見芙美枝と白獅子堂(P101〜)
バッハ 平均律クラヴィーア曲集 チェンバロ独奏 YouTube

◯トーマス・マン「魔の山」の話(P104)
この小説「東京シック・ブルース」は「魔の山」のような話。
広義には大学生活は「魔の山」のようなモノとも言える。

◯下宿の東大生の話②(P121)
飲酒の限界の話(3パターンの射出)、生と死の話。
「小さな光の球が無限の質量を持つ暗黒に囲まれている」

◯權藤の話(クラスメイト、バイト仲間)(P256)
「恋愛は体に悪い」
考えても結論が出ない事、
なるようにしかならない事をつい考えてしまう。

◯観たとから観たとこまで(P234)
僕も大学時代によくロサ会館の映画館でこういう観方をしていた。
面白い映画だと観たとこも観て1.5回観る事もあった。
これはどういう事なんだろう? と考えながら初見の後半を観るのは、
答えから問題を考えるような面白さがあった。
2021年現在は殆どの映画館でこういう観方はできない。

◯篠崎葵とのキス①(P235〜)
樒さんと一緒に食事、タクシーで送る、自宅の前で抱きしめてキス

◯こもかぶりのキャンティ(P268)
僕も恵比寿に住んでいた90年代に近所の酒場でよくこのキャンティを買った。
下半分が太っちょでかわいらしいデザインの瓶。

◯篠崎葵とキス②(P265〜)
樒さんの家で食事(パエリア)、布団で腹ばいになって話、いきなりキスをされる

◯篠崎葵とキス③(P307〜)
樒さんの墓参り、料亭、自宅の近所で抱きつかれてキス

◯向井と武田の顛末(P423〜)
文学はある種の性格の人間には麻薬

◯篠崎葵と白獅子堂(P443〜)
マーラー 交響曲 第1番(巨人)YouTube




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