夏目漱石「明暗」

夏目漱石「明暗」

2009年に1回読んでいるが、例によって、面白く読んだ記憶のみで、
細かい所は殆ど覚えていなかった。こんなに深い話だったとは…。
前回2009年に読んだ時は会話の表層の面白さしか読み取れていなかったようだ。

直前に村上春樹「1Q84」を読み返していたので、
やたらと人と人が会っていろいろ会話する展開がそれだけで楽しいが、
この小説はそんじょそこらの心境小説とは一味も二味も違う。

日常のコミュニケーションツールとしての「言葉」の不完全さ、
言葉をどれだけ尽くしても人は判りあえない、という事実を、
膨大な言葉を尽くして証明しようとする小説。

抽象的な言葉の意味は人によって微妙に違う。
例えば「愛」という抽象概念を示す言葉の意味やニュアンスは、
僕と僕以外の人間で微妙にもしくはかなり違う。
僕が使う場合でも時と場合によって微妙に違う筈だし、
時間が経過すれば、僕がどんなニュアンスで使ったか、
相手がどんなニュアンスで受け取ったかかも曖昧になる。
抽象的な言葉を含む会話は、会話が行われた瞬間から、
曖昧さと誤解を常に内包する宿命にある。
それゆえ、人と人は言葉で判り合おうとすればするほど、
言葉で表現できないレベルで差異/感情のすれ違いが大きくなって行く。
それでもニュータイプならざる僕たちは言葉でコミュニケーションを取るしかなく、
そこに生じた相互理解や共感はある意味では常に誤解・妄想であると言っても過言ではない。

内なる言葉(意識)と他人に対する外なる言葉(会話)に関して、
ここまでの深さまでこだわった小説を他に知らない。

この小説が未完なのはある意味では小説の神様の差配。
日常のコミュニケーションツールとしての「言葉」の不完全問題は、
どこまで言葉で語っても決して誰もが納得できる名解にはたどり着かない。
ニュータイプの遙かな宇宙の地平で、アムロとララァがどこまで判りあえたか、
現生人類の僕たちは、それを十全に語る言葉を持たない。

夏目漱石プロフィール


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